【ネタバレなし】『美術館を手玉にとった男』無償で贋作を寄贈し続けた、謎の男のドキュメンタリー【レビュー】

2021年5月30日

artandcraft

出典:( (C)Purple Parrot Films. )

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*ジャンル:ドキュメンタリー
*キャスト:マーク・ランディスマシュー・レイニンガーアーロン・コーワン
*監督:サム・カルマンジェニファー・グラウスマンマーク・ベッカー
*脚本: –
*公開:2015年11月

*評価 (10段階):7
*ネタバレ:無

ドキュメンタリーの主人公はマーク・ランディス。彼は2008年に発覚するまで、30年にわたって46もの美術館に100作以上の贋作を寄贈した。[1]参考:America’s most generous con artist – BBC

彼は幼少期から模写を好んだ。10代の頃から精神疾患を患っている彼の安らぎは模写することにあった。

ある日を境に、彼は彼の作品を美術館に寄贈するようになる。多くの美術館は、それが彼によって模写された贋作と気付かず、ありがたがって展示する。

多くの贋作者の目的は金銭であったり、自身の名声を高めることであったりしたが、マーク・ランディスは金銭にも自身の名声にもまるで興味がなかった。

全米を騒がせた謎の贋作者の素顔とは。

引用元:映画『美術館を手玉にとった男』予告編 – YouTube


観た!超面白かった~。内容はあらすじのとおりで、ドキュメンタリーなのでストーリーがどうとかないんですけど、あらすじだけで面白いですよね。これがそのまま直撃する感じです。

個人的にドキュメンタリー映画が意外と好きで。っていうのも、あらすじから殆ど外れないんですよね。だからあらすじがつまらなさそうであれば観なければいいし、楽しそうなら相応に楽しめる印象があります。

本作も同様で、訳の分からん老人が訳の分からんことを訳の分からんままやる。これが面白い。

評価は7としています。訳分からんけど面白かったので7です。6も結構面白いのですが、6より面白く、また同じドキュメンタリーで評価8の『夢は牛のお医者さん』と比較して7かなと思いました。

以下から、少し掘り下げて書かせていただきます。


ただただ、訳が分からん

あらすじで書いたことが全てで正直書くことも無いのですが、「訳が分からん。」これに尽きます。

マーク・ランディスは公開日の2015年で60歳で、もう本当にボンヤリとしたご老人でしかありません。彼が絵を描く、精神科に通院する、美術館のスタッフから電話がかかってきて受け答えする。

贋作者は金銭目当てに絵を提供することが多いのですが、彼はそんなことに興味もなく、ましてや名声にも興味がありません。贋作を提供する際は普通に自分で絵画を持って行って、本名で普通に提供する。よく分からない雑談を少しして、帰宅してまた模写する。

そうなんです。本当に、もう本当に訳分からん老人が、訳分からんことをしているだけのドキュメンタリー。

また彼自身にも悪意はなく、この行為自体を「慈善活動」とさえ呼ぶ。この件が明るみに出てから、美術館のスタッフやマスメディアから連絡を受ける訳ですが、彼自身に悪意が全く無いので普通に対応するんですよね。名刺渡されたら、むしろこっちから電話かけたりする。

これ、もしかして僕は夢でも見ているんですか?

よく居る訳分からん老人がうっかり有名になっちゃった話

歴史上の大きな出来事だったり、何かの凄い事柄って意外と杜撰だったりするじゃないですか。発覚したら、ザルすぎて「よくこの感じでここまでデカいことになったなぁ」みたいな。

彼の贋作もそれに似たようなところがあって、それがめちゃくちゃ面白いです。

すごい細かいところはめちゃくちゃ細かくやってたりするんですが、いきなり「草原はチャッチャでいいんだよ~」とか言いながらなんも考えていないテンションでチャッチャと色付けしたり。

「これこれ~、ウォルマート(スーパーマーケット)の額に入れたら1億円くらいに見えるよ~」とか言いだしたり。

「キャンバスの裏の感じは超簡単でさ~、コーヒーこぼしたらいいんだよ~」とか言いだしたり。訳分からん。サイコー。

神格化するような話ではないのですが、そのへんによく居る訳分からん老人が、よくやりがちな訳分からんことをやっていて、それがちょっとした弾みでスケールデカくなっちゃった感じがめちゃくちゃ面白いです。

贋作者は画家ではない

最終的には、かつて贋作を掴まされた一部の美術館スタッフによって個展が開かれます。これは決して神格化するようなものではなく、数多くの美術館が贋作を掴まされた教訓を以てして開かれたものです。

マーク・ランディスはそこに訪れた来客者と会話をするのですが、度々「あなたは才能があるから画家になってオリジナルの絵を描くべきよ」と言われます。

それに対して彼は「あの絵は僕が描いた、僕の名前入りの絵だよ。」と一つの絵を指すんですね。

その絵というのが、彼が、母の若い時の写真を模写した絵なんですね。なんだかそれを見たとき、何を以てオリジナルというのか、何を以て贋作というのか考えてしまって。

本作の冒頭、マーク・ランディスは以下のように語ります。

オリジナルなんて存在しない。全て元ネタがある。
出典:『美術館を手玉にとった男』 マーク・ランディス

彼の描いた母の絵は、彼のオリジナルの絵なのでしょうか。少なくとも私は、贋作者としてしか生きられない悲しみをこのシーンに見出しました。

訳の分からん老人の言葉が、時に響いたりもする

ここで名前は挙げられませんが、某シマシマの服を着た異質VTuberの方が、訳の分からん老人の言葉に感銘を受けた旨を話されている動画があります。

本作でも時折、心に響く言葉がボーっとしたマーク・ランディスから飛び出てきたりしていました。きっと彼は大した意味もなく話しているのでしょうが、なんだかうーんと考えさせられてしまったなぁ。

観る側次第ではいくらでも意味を見出しうる作品でした。めっちゃ面白い。オススメです。

行動を起こしている時は、人はそれに信念を持っている。
出典:『美術館を手玉にとった男』 マーク・ランディス


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References